イソップ物語

6月1日(木)☁
午前 空き有り
午後 空き有り

6月2日(金)☂
午前 空き有り
午後 空き有り

6月3日(土)☀
午前 2番便大型のみ空き
午後 最終空き有り

 先週末岐阜山岳会の飲み会が柳ヶ瀬であって、そこである会員からおもしろい話を聞かされた。その方は高校の教師時代に古文を教えていて、ときたま変わった話題を持ち出すことがある。

「山さんは“イソップ物語”を知っているかい?」と聞いてきたが、そんなものは昭和生まれの者ならだれでも聞いたり読んだりしたことが有るはずで、「もちろん知ってるよ」と答えておいた。

 「それなら、世界中で一番読まれてきたのは日本だということも知っているかい?」

 そんなことまでは知らない。第一その物語が書かれたのはギリシャで、当然ヨーロッパ人に最も多く読まれてきたはずだと思っていたのだ。しかし、室町時代にもたらされたその物語が、戦国時代、江戸時代、明治大正昭和と連綿と500年ちかくに渡って読まれてきたのは日本だけらしい。

 ヨーロッパでは百姓町人が文字を読むことを禁止された国が多くあったが、日本では信長秀吉家康等すべてのトップが百姓町人寺子屋のはな垂れ小僧であっても、読み書きそろばんを奨励してきた。欧州では百姓町人が政治に口出しすることはまかりならぬということで、特権階級にしか文字を読めなかった。したがって日本と欧州とでは識字率にすさまじい差が生まれてしまったのだ。

「蟻ときりぎりす」という物語があるが、原題は「蟻と蝉」が正しくて、欧州では蝉が少ないためにキリギリスに置き換えられ翻訳されたが、日本版だけは蝉をそのまま使っていて、そういう意味でも原本にもっとも近いのは日本語訳だと言われている。

日本版は「伊曾保物語」と題名が付けられたが、その一部を抜粋してみると、

「さる程に、春過夏たけ、秋も深くて、冬のころにも成しかば、日のうらうら成時、蟻あなよりはい出、餌食を干すなどす、蝉来て蟻に申すは、あないみじの蟻殿や、かかる冬ざれ迄、さやうに豊に餌食をもたせ給ふものかな、われに少の餌食をたび給へと申しければ、蟻答伝、御辺は春秋のいとなみには、何事をかし給ひけるぞといへば、・(中略)
・・・・たしかに世の事をもいとなむべし、ゆたかなる時、つづまやかにせざる人は、まずしうして後に悔るなり、さかんなるとき學せざれば、老てのちくゆるもの也、醉のうちみだぬれば、さめてのみくゆる物也、」

なお、この「伊曾保物語」の原本全36巻は大英博物館に所蔵されているらしいが、「イソップ物語」のすべての物語が網羅されているのは日本語で書かれたものだけで、そういう意味でも非常に貴重な資料であるらしい。その価値に度肝を抜かれた英国人が門外不出の図書として大英博物館に所蔵したが、日本人の多くはただの子供向け「童話」としか認識していない。