お花摘み

　登山をしていて急に用を催すことがある。金華山や百々ヶ峰なら、我慢して近くのトイレに駆け込むことも可能だが、そんな山は岐阜では稀で、大抵の山にはトイレなど無い。

　そんな場合どうするかと言うと、背に腹は代えられないからそこでするしかない。無理に我慢などしていたら、楽しい登山も台無しになってしまうだろう。

　登山用語には、山でこっそり用を足すときのことを女性では「お花摘み」男性では「キジ射ち」ということばがある。どちらも非常に風情があって美しいことばではなかろうか。単独の登山の場合はどうと言うこともないのだが、グループで登っている時は困ってしまう。そんな時は何食わぬ顔で「わたし、ちょっとお花を摘んで来るね」と言って列を離れ草むらに入る。終わった後は涼しい顔で「きれいな花が咲いていたけど、すぐ枯れてしまいそうだから摘んで来なかったのよ」とか何とか言って澄ましている。

　「キジ射ち」は息を殺してしゃがむ姿がいかにもそのものに見えるかららしい。その山にはキジなどいないのだが、本人は真剣な顔でヤブをかき分けて行く。